2001年10月05日(金)


サンフレッチェ広島サポーター通信〜「一進一退」の先に見えたもの

レポート/瀬戸秀紀

 寄せては返す波のように、内容的に一進一退を続けていた今季のサンフレッチェ。連勝と連敗を繰り返し、成績もなかなか安定せず「降格圏内」から遠ざかったり近づいたり。特にセカンドステージのFC東京戦の終了後は、あまりに何度も繰り返される逆転負けに監督自身が頭を抱え、「選手や戦術よりも、監督を変えるしかないんじゃないか」と口走った(スポニチの記事より)のだそうだ。

 戦術はいい。選手の質も高い。が、結果が出ない。この、監督だけでなく選手もサポーターもストレスがたまる状況に、ヴァレリー監督が取った手段は「選手のダークサイドを刺激する」事だったらしい。普段は物静かなこのロシア人は、横浜戦前の練習中についに怒りを爆発させたのだそうだ。特に切り札として獲得してきた元ウクライナ代表のスカチェンコに対しては、ピッチ横で叱責しただけでなく、練習後に呼びつけて怒りをぶつけたのだそうだ。

 これがどれほど有効だったかは、その後のゲームを見れば分かる。FC東京戦では動きが無く、守備でも攻撃でも「あなた任せ」のプレーが多かった選手達が、全く違った動きを見せた。守備から攻撃、攻撃から守備への切り替えが格段に速くなり、横浜と福岡を相手にほぼ完ぺきな勝利を演出してくれた。特に福岡戦は内容的にも圧倒。20本ものパスを繋いでシュートで終わる攻撃は、間違いなくこれまでのサンフレッチェのサッカーとは次元の違うものだったのである。

 湯浅健二氏の著書「サッカー監督という仕事」によると、ドイツの名将、故ヴァイスヴァイラー監督はこう語っていたそうだ。

「トレーニング方法、システム、戦術などの知識やアイディアをひけらかしたり自慢するコーチは多いが、そんなヤツらはほとんどが二流だ。コーチの本質的な仕事は...チーム本来の目的を達成することに向けて、選手達が全力を尽くして取り組むようにマネージすることだし、実戦ではチーム共通の目的を達成するために、全力で戦おうとする『姿勢』を育成することなんだ」

 ヴァレリー監督がした仕事は、まさにこれだったのだろう、と思う。就任以来9ヶ月間に積み上げてきた戦術トレーニングをベースにして、「やらされるサッカー」から「自分本位のサッカー」へ選手の意識を劇的に転換させたことが、チームをそれまでとはまるで違うチームに生まれ変わらせたのだ。

 サッカーは相手があるスポーツだ。そしてチームは生き物だ。だから今うまく行っていたからと言って、次もうまく行くとは限らない。これからもサンフレッチェは、一進一退を繰り返すだろう。だが、危機を乗り切った監督への信頼はもう揺るがない。「名将」であることを自ら証明したヴァレリー監督とともに、いつかは「優勝」と言う最上の美酒を味わう事ができるのではないだろうか。